18社の立地、240名の雇用を実現。 高知県が「IT・コンテンツ産業」で盛り上がる理由を2人のキーマンに聞く

「地方創生」という言葉をよく聞くようになってから久しい。

自然が豊か、物価が安い、子育てしやすいなどの謳い文句のもと、各自治体が人や企業を呼び込むためにさまざまな取り組みに注力している。詳しく見てみると確かに一つひとつの要素は魅力的だが、「どの地方も同じことを言っている」と思うことが何度かあった。これでは何らかの愛着や原体験を持っていない限り、人は動かないのではないだろうか。

「どうしたら人は地方に動くのか」と考えていたとき、高知県の取り組みに出会った。全国人口ランキングで下から3番目の同県。しかし、数年前からIT・コンテンツ関連企業の誘致活動を進め、2018年12月現在で18社の企業を立地し、約240名の雇用を生んだという。

シビレでは、東京にこだわらない働き方(OFF TOKYOと呼んでいる)に興味のある人がゆるく集まる「シビレバー」というイベントを毎月渋谷で開催している。

12月に開催したシビレバーは高知県と共同で企画し、「なぜ高知が盛り上がっているのか」を2人のキーマンに語ってもらった。高知県出身の実業家である武市智行氏と、株式会社オルトプラス 代表取締役CEOの石井武氏だ。その内容が面白かったので、紹介していきたい。

武市智行氏:慶應義塾大学を卒業後、四国銀行に就職。退社後はスクウェア(現スクウェア・エニックス・ホールディングス)、ドリーミュージック、AQインタラクティブ(現マーベラス)などで社長を歴任。現在は武市コミュニケーションズ代表取締役のほか、AimingやSHIFT PLUS、GameWith、ジモフル、アルファコード、プレースホルダの取締役などを務めている。高知県IT・コンテンツ産業振興アドバイザーでもある。

石井武氏:証券系ベンチャーキャピタルで約9年間にわたり、投資活動を行う。2000年からコンシューマーゲーム業界に転身し、2010年5月にオルトプラスを創業した。2015年4月にSHIFTとの合弁会社「SHIFT PLUS」を高知県に設立。2018年5月には、「オルトプラス高知」を設立している。

全ては「まんが・コンテンツ課」から始まった

武市智行氏

武市智行氏

高知県の歩みは、2010年にさかのぼる。「多くの漫画家を輩出しているからこそ、漫画やコンテンツ産業を通して高知を活性化したい」という思いから、知事の尾﨑正直氏が「まんが・コンテンツ課」を設立した。その際、高知県出身でスクウェア(現スクウェア・エニックス・ホールディングス)などで社長を務めた武市氏に相談があったという。

確かにコンテンツ産業であれば、インターネット環境があれば都市部でなくても事業展開が可能だ。しかし、単にクリエイターを支援するだけでは長続きしない。そう考えた武市氏は、継続した取り組みとするべく、「ビジネス」として成功することにフォーカスした。

武市氏:当時はソーシャルゲームが全盛期を迎えたころで、GREEやモバゲーがオープンプラットフォーム化を進めていました。ソーシャルゲームは少ない資金でサービスインができますし、ヒットすれば数千万円の売り上げにつながるので、ビジネスとして成功する可能性もある。そこで、ソーシャルゲーム企画コンテストを開催することにしたんです。

その後、コンテストを通じて実際に配信したソーシャルゲームも複数あったが、スマートフォンの普及により、徐々にネイティブアプリの需要が高まった。

自分たちだけでビジネスを作るのではなく首都圏の力も借りる必要性を感じ、2014年から企業誘致に注力し始めたそう。企業誘致を進める際に、武市氏から声をかけられたのがソーシャルゲームの開発や運営を行っているオルトプラス代表取締役CEOの石井氏だった。

武市氏がAQインタラクティブ(現マーベラス)の社長だったころ、石井氏は経営企画室の室長だった。その後、武市氏が同社を退職し、石井氏はオルトプラスを創業したが、所属は違っても師弟関係は続いた。オルトプラスを創業した2010年のころから、武市氏は石井氏に「上場したら、高知県に拠点を設置してほしい」と声をかけていたという。

石井氏は、高知県に縁もゆかりもなかったが、ソーシャルゲーム企画コンテストの審査委員として何度か現地に足を現地に運ぶ中で、明るい県民性や団結力に惹かれていったという。他の地方も視察したが、県の支援制度が充実していたことや武市氏の言葉が後押しした。

2015年4月、ついにオルトプラスと株式会社SHIFTとの合弁会社「SHIFT PLUS」が高知県に設立されたのだ。オルトプラスが東証一部に上場して約1年後のことだった。

SHIFT PLUSは、ゲームやアプリの品質管理やカスタマーサポートを主に手掛けている。設立当初に約30名だったスタッフは、2018年12月現在で100名を超える規模になっている。

SHIFT PLUSのWebサイトには、このような文言が記されている

SHIFT PLUSのWebサイトには、このような文言が記されている

地方なら「チームビルディング」もすぐに

石井氏は、次に高知に拠点を設置してから気付いた魅力について語った。

1つ目は、チームビルディングのしやすさだ。東京では、会社の規模が大きくなるにつれて、社員との距離感に悩んだ時期があったという。社員の多くが中途社員で占めているため、さまざまなカルチャーを持った人が集まる中で、会社として一体感を持つのは難しい。

ゲーム業界はチームで行う仕事が多いため、チームビルディングは特に重要になる。飲み会や花見などの施策は行っていたが、効果的な打ち手が見つからなかったそう。また、たとえ優秀な社員がいたとしても、東京では転職リスクも高い。

石井氏:SHIFT PLUSを立ち上げたときに、みんなで「ひろめ市場」に飲みに行ってみると、社員の多くが何らかのつながりを持っていたんです。たとえば、「○○高校卒業」と言うと、「お兄ちゃんは○○さんでしょ?」みたいな(笑)。共通の知人がいるだけでも、距離は縮まりますよね。地方ならではのチームビルディングのしやすさを感じた瞬間でした。

2つ目は、主体性を持った社員が多く集まったことだ。新しい拠点を一から作るということでメンバーを募集したのもあるが、ここにも地方ならではのメリットがあったという。

石井氏:地方は遊ぶところが少ないので、エンタメの中心がスマホのゲームになりやすいんですよね。一切課金をせずに「ここまで頑張れるのか」と思うほど、長時間夢中に遊んでくれているユーザーがいる。ゲーム好きな方が非常に多いので、デバッグなどの作業も主体的にサポートしてくれるんですよね。これにより、離職率も低くなるので、採用するまでに時間がかかったとしても、採用できれば定着しやすいのは地方のメリットだと思います。

石井武氏

石井武氏

「若手人材が挑戦できる舞台を高知に増やす」

SHIFT PLUSの立ち上げ後、AIの社会実装拡大に取り組むNextremerや、マンガマーケティング事業を手掛けるシンフィールドなどが高知に拠点を設置した。2018年5月には、オルトプラスの子会社として、スマホゲームの開発や運営を行うオルトプラス高知も設立された。

武市氏は、18社の立地につながった要因について、次のように分析する。

武市氏:他の自治体で企業誘致がうまくいかないのは、本当の意味で旗振り役がいないからだと思います。私や石井さんのような企業側の人間が本気で動けば、企業同士で同じ目線で話ができるので、皆さん話を聞いてくれるのかなと。そして、拠点を設置した企業が主体性を持って高知の魅力をどんどん発信してくれるので、良い循環が生まれている気がします。

石井氏は、若手人材が挑戦できる舞台としての地方の重要性を挙げた。

石井氏:SHIFT PLUSとオルトプラス高知の社長は、「高知で挑戦したい」と手を挙げた当時26歳の社員に任せることにしました。彼らにとっても、私にとっても大きな挑戦でしたが、その意思決定が圧倒的な成長につながりましたし、周囲から見ても夢がありますよね。

悪い意味ではなく、地方はあらゆる面において都市部と比べてコストが安いです。新しいことに挑戦するときに、企業にとってコストが安いのは絶対的な正義。東京なら失敗できないことでも、高知なら3回挑戦できるかもしれない。そんな地方ならではの特徴を、若手人材が挑戦するための環境として活用するのは、一つの方向性なのではないかと思います。

都市部でIターン・Uターン向けの就職説明会をすると、「大自然があるよ」と伝えるよりも、「東京と同じような仕事がある」の方が圧倒的に反応が良いです。つまり、東京と同じように挑戦できる舞台を作ることができたなら、地方にも人は動くということなんです。

SHIFT PLUSが始めた転職・求人メディア「BUNTAN」

SHIFT PLUSが始めた転職・求人メディア「BUNTAN」

今、高知県では拠点を設置した企業らによって、新たな動きも生まれ始めている。

SHIFT PLUSとNextremer、dataremerの3社は、AIによる自動チャットシステムを活用したカスタマーサポートサービス「AICO(アイコ)」の提供を2017年11月から開始した。

2018年11月には、“はたらく”を応援する転職・求人メディア「BUNTAN」をSHIFT PLUSがオープン。企業の増加に伴う人材不足や、Web上に高知県の情報が少ないという問題意識から生まれたという。同年12月には、指定したプログラミングコースを受講後、高知県の企業への就職や移住を条件に、受講料を最大50万円サポートする制度を高知県が発表した。

イベントの最後、武市氏は今後の目標について「経済基盤が縮小し、少子高齢化が進むことで、若者が県内から出てしまう状況になってしまいました。若い人が活躍できる高知県にならないと、経済は成長しない。そのための環境整備を進めていきたいです」と語った。

シビレと高知県では、2月2日(土)に未経験からエンジニアになりたい人を応援するイベントを都内で開催する。高知県が新しく始めた支援制度や先輩エンジニアに話を経験談を聞くとができるので、地方への移住に関心がある方は、ぜひ気軽に参加してみてほしい。

button_

エンジニアの東京にこだわらない働き方を支援 サービスに申し込む